「大船に乗ったつもりで……」をもじって「泥船に乗ったつもりで……」。さらにひねって「タイタニックに乗ったつもりで……」。いくら大船でもタイタニックでは安心できないという、やや不謹慎なジョークではある。
titanic
 1912年4月14日の深夜、処女航海中だった英国の豪華客船タイタニック号は、北大西洋上で氷山に接触し、翌日未明に沈没した。犠牲者の数は1513名と言われている。このセンセーショナルな海難事故の顛末は、100年以上経ったいまでも広く伝わっている。だからこそ、上記のようなジョークも通じるわけだ。

 この事件を題材とした映画や小説も多数生まれた。もちろんバラッドも例外ではない。すでにブロードサイドの全盛期はすぎ、時代はレコードへと移りつつあったものの、事故を歌うバラッドは何週間も経たないうちに登場した。事故の翌年にはいくつものレコードが発売され、その後もあまたのレコードが制作され続けた。そうした歌を集めたコンピレーション盤も編纂されている。

 歌い手も枚挙にいとまがない。主なシンガーを挙げただけでも、、アーネスト・ストーンマン、バーノン・ダルハート(この人は「ミスター・ディザスター」と呼びたくなるくらい事故の歌ばかり歌っている^^;)、ディクソン・ブラザーズ、フランク・ハッチソン、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、レッドベリー、ウディ・ガスリー、ピート・シーガー、マッド・エイカーズ……など。

 以下に代表的なものをいくつか列挙してみる。

 オールドタイムの人気スター、アーネスト”ポップ”ストーンマンの「The Titanic」は1924年の録音。「The Sinking of the Titanic」のタイトルでも知られるこの歌は、タイタニックを扱った曲の中ではいちばんポピュラーかもしれない。

Ernest Stoneman (Hd Remastered Edition)
Resurfaced Records
2018-01-28

 バーノン・ダルハートの曲名は、「Sinking Of The Great Titanic」となっているが、おおもとはストーンマンと同じ曲。ただし譜割りがだいぶ整理されている。このバージョンをお手本にしたと思われるパフォーマンスは多い。リリースは28年ながら、レコーディング自体は1926年だったようだ。


 ハリー・スミス編の『ANTHOLOGY OF AMERICAN FOLK MUSIC』には、ウィリアム&バージー・スミスの歌う「When That Great Ship Went Down」が収められている。ストーンマンやダルハートのものとはまったく別のタイタニック・ソングに聴こえるが、歌詞はほぼ同じ。メロディだけが異なっているようだ。ハリー・スミスのライナーにも、この黒人夫妻に関する確かな情報はほとんど記されていない。1927年録音。時代を超越した名演と言っていいのでは?


 ウディ・ガスリーも同タイトルの曲を歌っているが、同名異曲というか、ダルハートのバージョンのコーラス・パートのみを取り出したバリエーションのようにも聴こえる。ピート・シーガーはウディ・ガスリー・バージョンを「The Titanic (When That Great Ship Went Down)」のタイトルで録音している。

Headlines & Footnotes: Collection of Topical Songs
Seeger, Pete
Smithsonian Folkways
1999-05-18

 ブラインド・ウィリー・ジョンソンのボトルネック・ギターが冴えるブルース「God Moves On The Water」は、まったく別物のタイタニック・ソング。

Complete Recordings of Blind Willie Johnson
Johnson, Blind Willie
Sony
1993-04-27

 マッド・エイカーズの「Titanic」は、レッドベリーがソースではないかと思われるもう1つのタイタニック・ソング。リラックスした雰囲気ながら、手練れのパフォーマンスだ。

Music Among Friends
Mud Acres
Beatball
2014-01-07

  ボブ・ディランの大作「Tempest」もタイタニックを歌ったバラッドと言える。生存者の語る物語という形式をとる歌詞には、古いバラッドからの引用も含まれている。とにかく質、量ともに圧倒的で、ある意味、タイタニック・ソングの集大成と言ってもいいかも。

Tempest
Dylan, Bob
Sony
2012-09-11